2026.10.10
懐かしい音楽が人をつなぐ
― 明星大学での研究から現在へ
明星大学同窓会は、これまで通学課程と通信課程とは別組織として活動してきましたが、本年10月1日に明星会に一本化をしました。このため、今回より通信課程の「同窓生の活躍」も開始します。先ずは、これまで通信課程の同窓会の会長を務められていた田中雅子さんをご紹介します。

きっかけは亡き夫の言葉 ―明星大学通信教育課程に入学
私が明星大学通信教育課程に入学したきっかけは、夫*を突然の事故で亡くしたことでした。生前、夫は「人生で一番楽しかったのは明星大学の学生だった時だ。今度、一緒に明星大学に行ってみよう」と話していました。夫を亡くした後、その言葉を思い出し、明星大学への入学を決心しました。
- 夫、宇田川正は15期経済学科卒業、漫画家の浦沢直樹さんと同じ堀部博之先生のゼミ
当時の私は、長年エアロビックダンスの指導に携わっていました。大学で学ぶ機会は、夫を亡くした悲しみから少しずつ前を向いて歩いていくことに繋がると同時に、それまで現場で積み重ねてきた経験を学問として体系化するきっかけにもなりました。
私は、エアロビックダンスのプログラムをどのように作成するのか、また、どのように指導すれば参加者が安全に、楽しく、効果的に実践できるのかということに関心を抱き、探究することを始めました。
通信制大学院に入学
明星大学を卒業後は明星大学大学院へ進学しました。当時、エアロビックダンスの作成方法や指導方法に関する先行研究は少なく、このテーマを受け入れてくださる研究室もほとんどありませんでした。そのような中、高島秀樹先生のもとで研究指導を受けられることが決まり、その後の私の社会活動の発展につながる大きな転機となりました。
大学院では、長年の指導経験を感覚的受容だけで終わらせるのではなく、動きの構成や指導方法を整理し、誰もが活用できる方法として体系化することを目指しました。また修士論文では、懐かしい楽曲でフィットネスダンス(日本の楽曲で行うエアロビックダンスプログラム)を実践することで、参加者が過去の思い出を想起し、その頃の出来事を仲間と語り合うことでコミュニケーションがより深まるという論文を書きました。
懐かしい音楽が人をつなぐ
その研究成果は、修士修了後、実際の健康づくり現場へと広がっていきました。東京大学名誉教授の宮下充正先生が提唱された「フィットネスダンス」は、日本語の楽曲に振り付けを行い、健康づくりを楽しむためのエアロビックダンスプログラムです。「フィットネスダンス指導教本」を執筆する機会をいただき、明星大学大学院で得た研究成果を、プログラム作成や指導方法に活用することができました。
さらに、美空ひばりさんの楽曲を使用したフィットネスダンス『ひばりエクササイズ』DVDの商品化にも、研究成果の一部を取り入れていただき、制作に関わることができました。大学で取り組んだ研究が論文として終わるのではなく、多くの方々の健康づくりに活用される形になったことは、私にとって大きな喜びでした。

勝つためのスポーツ
私は高校時代、水泳部に所属していました。後に強豪校となるその水泳部では、顧問の先生から「勝たなければ意味がない」と教えられ、勝つことを第一に考える厳しい環境の中で練習に励んでいました。
部には、大きな大会で記録を残すような優秀な後輩もいました。高校に入ってから本格的に水泳を始めた私にとって、競技力だけで彼女たちに勝つことは到底できません。それでも、自分にできることは何かを考えながら三年間水泳部で活動し、最後は部長を務めました。
エアロビクスとの出会い
振り返れば、この経験は私にとって大きな意味を持っています。競技スポーツの世界では、結果や勝敗が明確に示されます。努力しても、必ず勝てるとは限りません。その厳しさの中で、自分の役割を見つけ、仲間とともに活動を続けた三年間でした。
高校卒業後、東京YMCA社会体育専門学校へ進学し、そこでエアロビックダンスに出会いました。
私が強く惹かれたのは、エアロビックダンスそのものだけではありませんでした。エアロビックダンスの創始者、ジャッキー・ソレンセンが掲げていた「楽しさを分かち合いましょう」という理念に触れたとき、私は大きな衝撃を受けました。
高校時代に教えられてきたのは、「勝つことを第一に考える」という価値観でした。それに対して、エアロビックダンスには、誰かに勝つことではなく、音楽に合わせて身体を動かす楽しさを、人と分かち合うという世界がありました。
楽しさを分かち合うエアロビックダンス
運動には、競い合って自分の限界に挑戦する価値があります。一方で、上手い、下手、勝ち負けを超えて、同じ時間、同じ音楽、同じ動きをともに楽しむ価値もあります。私は、その考え方に強く共感しました。「運動を通して、人と楽しさを分かち合うことができる。」それが、私がエアロビックダンスを続け、やがて指導者として歩んでいく原点になりました。
高校時代の水泳部で経験した「勝つためのスポーツ」と、専門学校で出会った「楽しさを分かち合うエアロビックダンス」。一見すると対照的な二つの経験ですが、どちらも現在の私の指導の土台になっています。そして今も、エアロビックダンスを指導するとき、私の根底にあるのは、ジャッキー・ソレンセンの「楽しさを分かち合いましょう」という理念です。
現在へ
現在は、母校である明星大学をはじめ、大学・専門学校で非常勤講師、医療機関、行政の施設でフィットネスダンスの指導を担当しています。また、明星大学元教授の高島秀樹先生と卒業生有志で「高島塾」を立ち上げ、現在も高島先生の指導のもとで研究活動を続けています。
学生指導では、単に振り付けを覚えるだけではなく、自分たちの体力、目的に合わせてプログラムを構成し、安全で楽しい運動を実践する方法を伝えています。また、認知症医療を専門とする医療機関でも、患者さんの健康づくりを目的としたフィットネスダンスを指導しています。クラスでは患者さんの世代になじみのある懐かしい楽曲を取り入れています。
音楽を聴くことで当時の記憶がよみがえり、昔の出来事を語り合ったり、患者さん同士の会話や笑顔が生まれたりします。修士論文で考えていた「懐かしい音楽と運動を通したコミュニケーション」が、歳月を経た今、患者さんのクラスの中で生きていることを実感しています。
*現在では、フィットネスダンスは日本語以外の楽曲も認められています。

夫の言葉をきっかけに ―明星での学びが仕事の基盤に
夫との個人的な縁から始まった明星大学とのつながりは、私の人生を大きく広げてくれました。振り返れば、高校時代に「勝つためのスポーツ」を経験し、その後、エアロビックダンスと出会い、ジャッキー・ソレンセンの「楽しさを分かち合いましょう」という理念に惹かれたことが、運動指導者として歩み始める原点でした。
そして、夫の「明星大学の学生だった時が人生で一番楽しかった」という言葉に導かれるように明星大学で学び始めたことが、それまで現場で培ってきた経験を研究へとつなぎ、現在の教育や健康づくりの実践へと発展させてくれました。
星友会が明星会との合併
同窓会では、通信教育課程と通学課程、それぞれの歩みを重ねてきた同窓会が一つとなる節目に、通信教育課程星友会の会長を務める機会をいただきました。通学課程の卒業生であった亡き夫と、通信教育課程で学び、さらに大学院へ進んだ私自身の歩みを振り返ると、この合併には特別なご縁を感じています。
学び方は異なっていても、同じ大学で学び、それぞれの人生を歩んできたことを思うと、通学課程と通信教育課程の同窓会が一つになったことは、私にとっても大変感慨深い出来事です。
同じ大学で学んだという縁は、卒業した年代や学びの形を越えて、人と人をつなぐ力を持っています。これまでそれぞれの同窓会が築いてきた歴史や思いを大切に受け継ぎながら、卒業生同士が新たに出会い、互いの経験から学び、支え合うことのできる同窓会を育てていきたいと考えています。
「また帰ってきたい」と思える同窓会を
夫との個人的な縁から始まった明星大学とのつながりは、学びを通して多くの先生方や仲間との出会いへと広がり、今では同窓会を通して、さらに多くの卒業生へとつながっています。これからも一つひとつのご縁を大切にしながら、これまでの歴史を次の世代へつなぎ、卒業生にとって「また帰ってきたい」と思える同窓会を、皆さまとともに築いていきたいと思います。
田中 雅子(たなか・まさこ)
現職:明星大学非常勤講師 他大学・看護専門学校
非常勤講師、フィットネスダンス研究・指導者
心理・教育学科(通信教育課程)
2003年3月卒業
教育学研究科教育学専攻(通信教育課程)
2006年3月修了
