自らが「明星」で学んできたことを受け継ぐ
9月の明星祭、10月の修学旅行、そして11月の入学試験とお忙しい中、明星小学校の教室でのインタビューに応じていただきました。
1.自らが「明星」で学んできたことを受け継ぐ
― お嬢様が東京都教員採用試験に合格されたとうかがいました。おめでとうございます。
夏苅 ありがとうございます。
娘の様子を見ておりますと、明星大学に進学して良かったと思います。私の在学中とサポート体制が全く違いますね。ものすごく良いですね。
一般教養や専門の対策、あと面接の指導も親身にしていただき、手をかけ、最後まで見届ける、いわゆる「手塩に掛ける教育」をしていただきました。
― 確かに、教員を志望しておられる方にはおすすめですね。ところで夏苅さんは、幼稚園から明星と伺っておりますが、お子様方も皆さん同様でしょうか。
夏苅 娘たちも高校までは明星で過ごしましたが、明星大学へ進学したのは長女のみです。
― 夏苅さんご本人は、進学されるときに大学は明星と決めていたのですか。
夏苅 そういうわけでもありません。我が家は男3人兄弟で3人とも幼稚園から高校まで明星に通いましたが、兄2人は別の道を選んでいます。私も別の選択肢がありました。
高1の頃には中学・高校の体育教員を考えていたのです。ただ高校の時にボランティア活動などを通じて子どもたち(小学生)に接して、小学校教諭もいいなと思い、小学校教員資格取得ならと考え直して明星大学に進学しました
― ご家族の皆さんが明星と深く関係しておられ、いろいろうかがいたいところですが後ほどにし、まず明星大学在学中の思い出などうかがいたいと思います。
夏苅 いろいろな授業を受講し、教員になるための基礎が培われたと思います。教育実習では、毎日夜遅くまで指導案作成に追われましたが、とても貴重な時間を過ごせたことを今でも鮮明に覚えています。そして、教育実習後の講義には、それまでとは違った気持ちで臨みました。
卒論は甲斐規雄先生のゼミで体育を扱いましたが、その内容は今の自分自身の教員としての根幹となっています。
ただ一つ心残りなことがあります。それは土曜日1時限の科目を履修せず、幼稚園教諭免許状を取得しなかったことです。低学年指導の時などに役立ったのではないかと悔やまれます。
教育実習中
学業以外では、部活ではなく学外でクラブチームのように仲間とバスケットボールをしたり、隣の中央大学の食堂に行ったりもして、結構楽しくやっていました。中央大学へは、裏の山道(今の多摩モノレールの駅付近の窪地)を抜けて行きました。
― 教職に就かれてからの心構えや思い出などをお聞かせください。
夏苅 私が「明星」で学んできたことをそのまま子どもたちに反映させたい、という思いが強いです。明星小学校卒業の保護者もおられますので、その方々とともに、明星らしさを受け継いでいくということはとても大事なことと思います。例えば「凝念」(明星学苑の教育方針に示されている「凝念を通じて心の力を鍛える教育」、Web 頁より)もその一つです。
一方で、私は機会があればできるだけ世の中の流れにも敏感にキャッチしながら、外にも目を向けるようにしています。そして、他の学校の先生方の取り組みを吸収したいなと思っています。
明星小学校に赴任した時の菅野秀二先生(かんのしゅうじ 現 明星大学教育学部特任教授 13期心理・教育)や古賀博先生(現 啓明学園幼稚園園長)に教員のイロハから教えていただいたことがきっかけです。
2.明星の夏苅 世界を知る
― 高校時代には中・高校の体育教員を志したということでしたが、小学生の体育についてはご著書もございますね。
夏苅 様々な研修会に参加し、少しずつ先生方とのネットワークが広がりました。そこで得たつながりから、何度か雑誌へ寄稿する機会をいただきました。また明治図書から単著出版した本では「(前略)『体育大好き!』という子どもが多くいます。その期待に応えられるように,日々教材研究を進めていますが,何から教えたら良い悩むことがあります。(中略)そこで,私自身が体育の授業で大切にしていることは,次の3点です。(以下略)」**という、私が実践していることを、そのまままとめてみました。
実は来年早々にこの著書の続編が出版されます(単著、160頁、2023年3月明治図書より発刊済み)。是非ご購入をお願いいたします。現在、私は筑波学校体育研究会の理事も務めており、この著書も筑波大学附属小学校の体育スタイルです。
― お忙しい授業などの合間に、書籍の執筆や研究会に所属して積極的に外部との接点を求めて活動しておられますね。
夏苅 先にも申し上げたように、私立小の教員は「井の中の蛙(大海を知らず)」になってはならないと思っています。自分に吸収できることはないかなと、研修会などにも参加しています。
先の体育研究会には教員初年から参加しており、現在では毎年夏休み時期に、小学校の体育の先生方に研修を行っております。
3.明星小学校の垣根から出てみたら、そこは明星ワールドであった
― 体育ばかりでなく、学級経営についても研究しておられますね。学事出版発行の定期刊行物***にも先ほどの菅野先生との共著作を見つけました。他の学事出版の書籍にもお名前があります。
夏苅 菅野先生が明星小学校長の時に一緒に書かせていただきました。この刊行物には、現在本校の校長をされている細水保宏先生も算数について執筆しておられます。
教員生活27年間、国公立私立の先生方と接し、少しずつネットワークを拡げ良いところは吸収しようと思って過ごしてきました。そこで気づいたのは、明星の教員ネットワークが広く、強力であることです。
先ほどの筑波学校体育研究会でも、国公私立の先生方が集まり初対面で紹介し合うとき「私も明星です」とご紹介いただき、とたんにフレンドリーな声掛けになりました。相手の方もそうだと思います。
中には、大先輩や通信教育課程で履修した方もおられ、親しくなって経験談をうかがうと、とても良い学びになります。余談ですが、ベテランの方と多摩動物公園駅からの急坂(かつての正門、現北門への坂道)の思い出も語り合いました。
他にも同級生が国公私立の教員でいたり、娘がインターシップで行った先に高校の同級生が副校長でいたりしました。ここ(明星学苑府中校)の事務所にも、高校の同級生で明星大学青梅校卒の上田君(康弘 うえだやすひろ 29期 青梅1期 電子情報学科)がいたりもします。
― 明星小学校は高学年専科制ですが、先生は体育ですか?
夏苅 国語・算数・社会が専科になっていて、私は社会です。国語も1時間指導していますが、現在明星大学におられる白石範孝先生(しらいしのりたか 現 教育学部常勤教授 11期・心理・教育)には、いろいろ教えていただき、国語の授業観が変わりました。
― 先ほどの学事出版刊行物で創刊号の巻頭言を書いておられた方ですか。
夏苅 その通りです。明星と関係のある先生方は多くいらっしゃいます。
― 現在実践しておられるタブレットの活用につながると思うのですが、モバイル端末活用に関する論文****の共同著者にもなっておられます。これも明星小学校の外での研究活動の一環ということですね。
夏苅 これは、もう退職されましたが元玉川大学教授で明星小学校の先生だった清水英典先生をはじめとする明星にゆかりのある方々との共同研究です。社会科の校外学習でタブレット端末(iPad)を児童に持たせてスーパーマーケットを取材しました。ツールとしてのモバイル端末利用可能性の研究です。
― 先にお話しいただいた、故事・ことわざになぞらえるなら「明星の夏苅 世界を知る」。そして、大海ならぬ教育界に漕ぎだしたところ、その世界は「明星ワールド」であった、ということですね。
4.コロナ禍で加速した明星小学校の ICT タブレット端末の活用
― モバイル端末活用について、明星小学校では新型コロナウイルス感染症が拡大する前からタブレットを利用した先進教育をしておられたとうかがいました。
夏苅 私が本校に赴任した時、先ほどの清水先生から「これからの教育には情報ツールは必ず必要になってくる」と教えていただきタブレットを使用するようになりました。
コロナ禍が始まる直前には、全児童がタブレット端末を使えるようになっていました。児童たちが登校できなくなった時はまだ手探り状態でしたが、どのように利用できるか、保護者の協力も得ながら現在のシステムができました。
タブレット利用の利点は、一斉配信して共有することもできるし、個別にも指導できることです。対面でのコミュニケーションは困難ですが、授業や課題に関しては問題ありません。個別の対応にも利用しています。
― 具体的にはどのように利用されているのでしょうか。
夏苅 まず、毎日、担任からその日の振り返りを一斉配信しています。校外学習の時には健康観察、ご家庭で検温し個別に報告していただきます。また、ご家庭への連絡、提出しなければならない課題や宿題もきちんと記録に残ります。
教師側からすると、一斉に課題を投げかけて、各人の取り組みが把握でき、個別に指導できます。子どもたちは塾も含めて自分で予定表を作り過ごしています。
― ICT 教育というより、既にツールとしてタブレットを使用しておられますが、昨今児童間での使用は問題が起きております、対策はしておられますか。
夏苅 児童―教師間やりとりについては他の児童とは共有できませんし、児童間での連絡はしないように指導しています。
また小学生でも簡単にプログラミングできるソフトウェアもあり、間違うとゲーム感覚になってしまいます。ご家庭とも協力し注意深く導入しています。
子どもたちは感覚で使い進歩はとても速く、フォローが大変です。感覚で利用しているからこそ、学校やご家庭のルールをしっかり守って使うということです。ご家庭の、お子さんにかける熱意は大きいなと感じます。学校だけでなく子どもを見守りながら育てていく、これが大事な点だと思います。
明星小学校の「正直なよい子を育てる」という教育理念にご賛同いただいているご家庭なので、成果をしっかり残し、安心して過ごせる居心地の良い学校であってほしい、という保護者の思いに応えなくてはいけないと思います。
5.「探究学習」でお菓子屋さん開店
― 明星祭で洋菓子店と共同でお店を開いて大盛況だったそうですが。
夏苅 今年度の我がクラスは「探究学習」として地元府中市との連携を意識した協働学習を進めています。別のクラスでは、大手の衣料品メーカーとコラボしたり、電気・電子機器メーカーの映像コンテストに参加したりしています。私のクラスは今年(2022年)府中の洋菓子店「ジェノワーズ」との協働学習の成果として、明星祭でお菓子の販売をしました。当日の様子を写真でご紹介します。また Web でも公開しています。*****
その時にもタブレットが活躍しました。
どういうお菓子が良いか、各人がアイデアを配信し全員で共有しました。
クラスを4部署(商品開発・宣伝・社会貢献・リサーチ)に分け、商品開発部では端末で共有したお菓子のアイデアをお店の方と話し合い、試作していただき、試食し、さらに話し合いました。クラス全員、販売員の経験もしました。
当日は台風接近ということで時短営業でしたが、完売しました。もちろん保護者の方に多く購入していただいたのですが…。今後は学外でも販売したいと考えています。収支決算も児童がしっかりしました。
― 冒頭にご家族の皆さんが「明星」の関係者ということで、もっとお話しをうかがいたかったのですが時間になってしまいました。1点だけ、お子さんたちが同じ学校ということは、教員としてやりにくくありませんでしたか。
夏苅 やりにくいということはありません。ただやはり自分の娘は目に入ります。しかし、そこでは担任の先生のやり方もありますので、グッと抑えます。ただし行事を一緒に楽しめたことが良かったです。娘たちの方は、少し過ごしづらかったかもしれませんね。
― 今日はいろいろなお話をありがとうございました。夏苅さんがこれまで過ごしてこられた「明星」を、是非、次代に引き継いでください。
ご家族のことはいずれまた、機会がございましたら詳しくうかがわせていただきたいと思います。
2022.11.8
夏苅 崇嗣 (なつかり たかし 29期・心理・教育学科 教育学専修卒)
学校法人明星学苑 明星小学校 教諭
明星同窓会(61星会) 評議員
筑波学校体育研究会 理事
東初協学級経営部会運営委員
UD体育事務局
**『体育授業サポートBOOKS この1冊でまるごとわかる!小学1年生の体育授業』(2019年明治図書 ISBN: 978-4-18-286011-9) より引用。最新刊は『必ずうまくいく!1年生担任のための体育活動アイデア』(2023年明治図書 ISBN: 978-4-18-356427-6)
*** 学級経営 潤いと輝きのある教室・学級開き(『使える授業ベーシック』創刊号2008年学事出版ISBN: 978-4-7619-1504-9)
**** 情報システム学会 第10回全国大会・研究発表大会(2014年度):
D13 モバイル端末活用でのチーム構築とクラウドアプリケーションを利用しコンテンツのデジタルアーカイブによるライブラリー化の可能性:佐藤恭仁(玉川大リベラルアーツ学群)、夏苅崇嗣(明星小)、内藤旭恵(静岡産業大情報学部),清水英典(玉川大教育学部)
***** 6年松組クラス探究学習報告 は、明星小学校の Web 頁トピックスでご覧いただけます。
6年松組クラス探究学習報告その5 〜明星祭での商品販売の振り返りの会〜https://www.meisei.ac.jp/es/topics/2022/knrj0n000000014f.html
6年松組クラス探究学習報告その4〜明星祭での商品販売〜https://www.meisei.ac.jp/es/topics/2022/pvsndk000000015r.html
6年松組クラス探究学習報告その3〜試作品検討〜https://www.meisei.ac.jp/es/topics/2022/ut644200000001jo.html
6年松組クラス探究学習報告 その2〜プレゼン発表会〜https://www.meisei.ac.jp/es/topics/2022/h2ojks0000000113.html