企業の労務管理を支える社労士として活躍
士業の皆さん結束しませんか
今回ご紹介する髙橋眞幸(たかはしまさゆき、19期・社会)さんは、化学工業薬品専門商社の営業マンから社会保険労務士として独立し、士業資格取得の専門学校で講師を勤めながら現在も活躍されています。「働き方改革」が進むなか、社労士の仕事の変化や業務への思い、明星大学在学中の思い出などについてうかがいました。
「働き方改革」により予防法務に関する業務が増加
私の現在の仕事「社会保険労務士(社労士)」は、弁護士や公認会計士などを含む「8士業*1」のひとつです。企業における人事労務管理を担当する一方で、医療保険や年金などわかりにくいとされる制度に関する専門家でもあります。
*1)8士業:士業(高度な専門資格を必要とする職業の通称)のなかでも特に、職務上の必要から住民票や戸籍謄本などを請求することが認められている8つの職業のこと。弁護士、弁理士、司法書士、行政書士、税理士、社会保険労務士、土地家屋調査士、海事代理士。
私は現在、独立開業をして個人で社労士事務所を営んでいますが、社労士の資格を取得した人のなかには、一般企業の人事労務関連部署で働いている方も多くいらっしゃいます。
「社労士の仕事」というと、従業員の入退職時に会社が行う社会保険や労働保険への加入・脱退の手続きなど「企業が行う行政への手続きを代行する仕事」というイメージが強いかと思います。しかし、社労士が扱う分野は幅広く、最近では「名ばかり管理職」や「未払い残業代」、「パワハラ」などのハラスメントへの対応に代表される様々なトラブルのほか、「働き方改革」による労働関連ルールの大きな変化など、以前とは比べようもないほど難しい対応が求められます。
こうしたことを背景として、企業における就業規則や賃金制度などの人事労務管理ルールの見直しや再構築を行うことにより、企業が法的な紛争を避けるために、あるいは法的な紛争が発生しても速やかに解決できるようにするための取り組みを行っておく、いわゆる「予防法務」の業務が増えてきており、私の事務所もこうしたいわゆるコンサルタントと呼ばれる業務が中核となっています。
明星大学在学中は文化会本部に所属
明星大学在学中は、文化会本部に所属し委員会活動に従事。慌ただしい日々のなかで多くの方々に出会い、いろいろなことを学ばせていただきました。
卒業アルバムより
以前、同窓生の活躍に寄稿されていた編集委員会の先輩もそのお一人で、そこで先輩は「多くの先生方、先輩方にお世話になったおかげもあって、今でも、大学の校歌が歌える」とおっしゃっていましたが、私も同様に今でも大学の校歌を歌うことができます(もちろん2番まで。笑)。
また社会学科では所属するゼミのゼミ長を務めさせていただき、今でも、人生の宝物のような時間であったと思っています。
大学卒業後は2年間の電設資材製造会社勤務を経て、化学品と食品の中堅素材メーカー(年末年始だけ「地味だけどすごい」とテレビCMを流していた某企業)の直系販売子会社に転職。営業職社員としてスタートを切りました。
エポキシ樹脂やウレタン樹脂といった機能性合成樹脂の販売業務に従事しましたが、いかんせん文系出身ということもあり、最初は「何を売っているのか」「何を説明すればいいのか」もまったくわからない営業マンでした。それでも当時はバブル真っ只中。給料も賞与も毎年上がるといった現在では想像できないような日々で、よくぞそんな社員に高い給料を払ってくれていたものだと、今になってみれば申し訳ない気持ちになったりします。
文化会の後輩と
会社の昇格試験のために国試・社労士の試験に挑戦
私が社会保険労務士の資格を取得しようと思ったのは、勤務先企業が「職能資格制度」を採用しており、「昇格試験」を受験するための前提条件として、一定の通信教育を修了することや、公的資格を取得することで得られる社内ポイントを取得することが必要とされていたから。とくに独立開業をめざしてのことではありません。
元々こらえ性がなく通信教育が苦手だった私は、単純に「せっかくだから資格を取得してしまおう」と考え、「毒物劇物取扱者」「特定化学物質作業主任者」など、当時の仕事に関連する資格を実際にいくつか取得していました。しかし、管理職への昇格試験を目の前にして、大きなポイントを取得する必要に迫られました。
最も高いポイントを得られる国家資格は「税理士」「社労士」「中小企業診断士」などでしたが、当時は勤務先企業グループの労働組合の役員を務めていたこともあり、「社労士がいいかも」となんとなく考えてチャレンジすることを決めました。
しかし、受験勉強を始めてすぐに私は大きな後悔をすることになります。当時の社労士試験は、受験生の急増もあり難化が進んでおり、合格率も5%~8%という難関資格でしたから「こんなに難しいんだ!」と思い知らされたわけです。ただもう、意地と執念だけで頑張り続けた結果、2回目の受験でなんとか合格することができ、その後、30代半ばで管理職への昇格試験にも合格することができました。
明星大学での学びが予備校講師としての糧に
本来であれば、そのまま会社員を続けていくつもりだったのですが、何故かその後大きく人生が変わることになります。当時は、社労士試験の受験者数が上昇を続けており、受験生当時に利用していた資格試験の受験校でも講座を担当する講師が不足している状況でした。
こうしたことから「休日だけでいいので講師をやりませんか」という打診を受け、「会社が休みのときだけ」という条件で資格試験の受験予備校で講師の仕事をすることになりました。その後、受験予備校の方から「本格的に多くの講座を担当してほしいので、会社を辞めませんか」という打診があり、悩んだ末、会社を退職して独立開業をすることを決心しました。
独立開業して数年の間は、受験予備校の講師のほかには仕事もなく、途方に暮れることも多かったのですが、その後徐々に顧問先企業も増え、事務所の経営も軌道に乗り現在に至っています。
資格試験の受験予備校の講師も続けており、気がついてみれば主任指導教官を任されるに至っています。社労士試験の受験科目に「社会保険一般常識」という科目があり、このなかで「社会保障制度の沿革(歴史)」を教えることがあります。こうした折に、在学中に社会学科で学んだ「社会保障論」の知識が役に立つこともあり、学生時代の勉強が糧になっていると感じています。
現在の私は、平日は顧問先企業の労務管理相談、労働社会保険関連の諸手続などの社労士としての業務を中心とし、週末は受験予備校での講師として教壇に立つ毎日となっています。
事務所の業務は、先の通り「企業における人事労務管理についてのコンサルタント業務」が中心になっていますが、近年はコロナ禍で企業存続のために助成金の支給についての相談や、実際の受給のための手続代行の仕事が急増したりもしました。また、顧問先企業のなかには、運送業や建設業も多いことから、今日いわれる「2024年問題*2」への対応に追われるなど多忙な日々を送っています。
*2)2024年問題:運送業や建設業に対して猶予されている「時間外労働の上限規制」の適用猶予期限の終了問題のこと。
令和5年度 TAC社労士合格祝賀パーティー
労基法の改正により社労士は注目の士業に
思い返してみれば、社労士を取り巻く環境は、私が独立開業をした頃と今とでは大きく変わってきました。開業当時、社労士の資格は「足の裏の米粒(とっても食えない)」などと揶揄(やゆ)されることも多く、多くの企業経営者が「労働基準法なんていっていたら経営はできない」と平気で発言するようなことも多くみられ、企業が「ひと」についての問題を軽視する時代が長く続いていたように思います。
しかし現在では、企業における労務管理の重要性が高まってきたこともあり、社労士の必要性や認知度も必然的に高くなってきていると実感しています。実際、私の仕事でも、弁護士や司法書士といった他の士業の先生方からの紹介による件数も多くなってきています。
同窓会「士業明星会」の結成をめざして
先日、以前勤めていた企業で定年準備のための研修の講師を務めてきました。考えてみれば、私も60歳になり、研修の対象者は会社員時代の同期社員です。もし、あのまま会社員を続けていたら、私も研修を受ける側であったのだと思い、不思議な感覚を覚えました。あと何年仕事を続けるのかはわかりませんが、このやり甲斐のある仕事を一日でも長く続けていければと思います。
最後になりましたが、社労士会のなかには多くの大学の同窓組織があります。早稲田大学であれば社労士稲門会が、日本大学でいえば社労士桜門会が、というようにです。残念ながら、明星大学ではひとつの士業では人数が少なく、こうした会を作るのは難しいかもしれませんが、複数の士業の連絡会のようなものであればできるのではと最近考えています。こうしたことの立ち上げにも携わっていければと思っています。
2023.11.27
髙橋眞幸
(たかはし まさゆき 19期 人文学部 社会学科1986年3月卒)
Profile
明星大学を卒業後、一般企業で営業職に就き、
社会保険労務士(国家資格)を在職中に取得。後に、
社会保険労務士事務所「高橋労務経営研究所」を開業
社会保険労務士
資格の学校TAC 社会保険労務士講座主任講師
リスクマネジメント協会認定リスクマネジャー
東京都トラック協会本部労務相談員