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限界集落の古民家を旅籠(はたご)に再生

今回ご紹介する保要佳江さん(ほようよしえ、43期・国際コミュニケーション)は、2017年、地元・山梨県芦川町で古民家を宿として再活用する会社を起業。事業はその後 “るうふ”
(https://loof-inn.com)という古民家一棟貸しホテルとして再生・運営するビジネスへと成長し、ホテル業界では新たな視点で地域を活性化させる、一目置かれる存在に成長しています。

女性活躍が加速するなか、代表取締役社長としてサステナブルなビジネスの拡大をめざす企業経営や、起点となった明星大学在学中の思い出などについてうかがいました。

― 代表取締役社長として経営されている「株式会社 LOOOF」について、社名の由来から教えてください。

保要 「株式会社 LOOOP」は古民家一棟貸しの宿を経営している会社です。物件探しから、改修、ホテルの運営までを一貫して行います。社名は、Local off (地域で休息を)の意味の造語です。従業員はアルバイトを含めて50名ぐらいおります。

社内には、古民家物件探し、古民家改修に特化した設計・デザイン、施工、そしてホテル(宿)として運用する各チームがあります。

るうふ1棟目工事中(左端が保要さん)

古民家は、購入する場合と、物件の所有者様からお借りる場合があります。一棟貸しの宿が現在13棟あり、2棟は直営ですが11棟はフランチャイズ制になっており、これも特徴です。

オーナー様が当社で一棟貸しをやりたいということでフランチャイズのご契約をされた場合には、当社がそれに適した物件を探して、旅館ができる物件であれば、旅館業の申請をしたり、必要なリノベーションを自社の設計士と大工、インテリアデザイナーが行ったり、また完成したらホテルのチームがその古民家を一棟貸しの宿として運営を行う、という形で実質業務をすべて当社が担っています。

るうふ1棟目工事中

<きっかけは海外へのあこがれ>

― 高校時代に貧困問題に関心を持たれ、その後、明星大学国際コミュニケーション学科に進学されました。いきさつを教えてください。

保要 小学生のころ「興味のある新聞を切り抜いて持ってきてください」という授業があって、1日1ドル未満で生活している人がいるという記事を見つけました。それまでの自分は知らない世界の人たちのことだったので、そこで興味を持ちました。

それと、私の出身が山梨県の芦川村*という人口300人ぐらいの小さな村だったということもあって「広い世界に行きたい」と海外に興味を持ったということもあります。

*芦川村:2006年 8月1日 、 笛吹市への編入合併により笛吹市芦川町

明星大学在学中

「いずれは海外で仕事をしたい」ということで、英語と国際関係の勉強ができて留学もできる大学を探して、明星大学の国際コミュニケーション学科を志望しました。

入学後は異文化を体験するプロジェクトに参加しながら「グローバル研究」に関連する科目を中心に履修。毛利総子先生の研究室に出入りさせていただき、いろいろな相談に乗っていただきました。

明星大学在学中

― 在学中の留学や異文化体験について教えてください。

保要 英語をまず話せるようになりたいと日本人が少なそうなアイルランドのリムリック大学に3年生の時に認定留学*しました。

留学から戻り、もう少し英語が使える環境にいたかったので、4年生の時に休学をして、国際コミュニケーション学科のフィールドワークでお世話になった栃木県のアジア学院*の研修に参加しました。

http://www.eleal.meisei-u.ac.jp/abroad認定留学制度 – 明星大学 人文学部 国際コミュニケーション学科 (meisei-u.ac.jp)
国際コミュニケーション学科は、全世界36の大学と学術提携を結んでいます。だから安心して、認定留学。しかも、“単位読み替え制度”で、休学・留年する必要がありません。学科からは毎年、この制度を利用して約40名の学生が半期の認定留学、または交換留学を実現させています。

https://www.ryugakusite.com/article/nintei-ryugaku/【2024年】認定留学とは? 学部聴講ができるプログラム一覧も! (ryugakusite.com)
認定留学とは、日本の大学に在籍しながら、海外の大学に1年間留学し、海外で取得した単位を在籍する日本の大学に移行する制度です。一般的に、大学在籍中に海外へ1年間留学すると、大学を休学して行くことになるため、日本の大学の卒業が1年間遅れることになります。認定留学の場合、大学の承認を得て留学する制度のため、留学期間も在籍していたとみなされ、海外に留学しても、4年間で卒業ができるというメリットがあります。

株式会社留学サイトドットコム RyugakuSite. Com, Inc. より

*アジア学院:学校法人として地方自治体の認可を受け、教育基本法及び学校教育法に規定された指針に基づく専門学校として運営。持続可能な世界の実現をめざし世界中から人々が集まり、共同生活を通して学べるのが特徴。

最初は短期のプログラムに参加し、その後住み込みで半年間働きました。共通語が英語だったので英語で生活ができるし、アジアやアフリカのNGO の方々がいらっしゃって、いろいろな会話もできて大変勉強になりました。

アジア学院時代

― 休学して新しい環境に飛び込むには勇気が必要だったと思います。印象に残っていることは。

保要 アジアやアフリカの極度の貧困地域からいらした方や、目の前で家族が殺された方もおられました。それでも新しいことを学んで「自分たちが自国に戻って、国を良くするんだ」ととても前向きでした。

そのような方々を目の前にして、日本は本当に恵まれていると感じ、それを生かして挑戦しないのはもったいないと思うようになりました。

またアジア学院は青年海外協力隊の出発前の受け入れ先にもなっていて、隊員はここで勉強したのち現地に1年間派遣されます。私も協力隊に入りたいと思いましたが、経験も知識もないなかで行っても何もできないし、自分はこれができるという「何か」を得た上で行かないと結局意味がないと思い、「村おこし」を通して何かしたいと考えるようになりました。

<地元の寒村で村おこし>

― 村おこしに取り組むために、どういう準備をされました?

保要 村おこしが何かまだよくわかっていなかったので、アジア学院から戻ってきて、山梨にある「NPOえがおをつなげて」という地域活性化に取り組んでいるNPOに応募しました。ちょうどそこが都市と農村を結ぶ事業家の育成を三重県で月に1回開催していたので、夜行バスで三重に勉強に行きました。

そのほか「田舎だからとりあえず農業かな」と思って調べて、夏の間に山梨の農業法人などのインターンシップに何件か参加しました。

― やがて卒業の時期になり、やることは具体的に決まっていたのでしょうか。

保要 一般企業への就職は考えていなかったですね。秋ごろに農業の会社「株式会社 国立ファーム」を友人に紹介してもらって、説明会に行きました。そのまま社長面接となり「何でうちの会社なの」と尋ねられて「村おこしがしたいんです」という話をした時に「うちの会社を踏み台にしてやりたいことやりなさい」って言っていただけたので、そのまま入社しました。

国立ファームにて

国立ファームには4年ぐらいおりまして、3年目あたりに地元の芦川で何かをやろうということになり、「囲炉裏フレンチ」という週末レストランのイベントを開催したりしました。会社に勤めながら、徐々に芦川でイベントなどの活動を始めていきました。

でもこれだと経済的に成り立たないし、やっぱり地元に腰を据えてしっかり継続する形でやらなきゃいけない。そこで田舎でも成り立つビジネスということで、古民家一棟貸しの宿にしようと思いつき「るうふ」を立ち上げたのが10年前です。

<古民家ビジネス>

― 村おこしという発想から、古民家の活用に移ったきっかけは。

保要 「囲炉裏フレンチ」は助成金を受けて、地域に人が来ることをめざしたイベントだったのですが、地域の方全員に賛同していただける村おこしとは本当はどういうことなのかを考え直すきっかけになりました。

このイベントを終えて、経済的に成り立たせるには、無理に何かを活性化するというより、自然な流れで地域が良くなっていき、自分自身が楽しいと思うことで、かつ自己資金でビジネスとして継続できるという形がよいという考えにたどり着きました。

また芦川町は「兜造り(かぶとづくり)」の古民家がまだたくさん残っており、他の地域とは違う「強み」がありました。兜造りは、かやぶきの上に兜の形をしているトタンが乗っているというのが特徴です。

その後、自力で経済的に成り立つ事業はないかと1か月ぐらい日本全国を旅して回りました。その中で古民家一棟貸しのモデルにたどり着きました。当時、古民家の活用や町屋を再利用するビジネスが西日本ではもうすでに活況を呈していたので、それを関東近辺に持ってこようと思い立ちました。

― すばらしい行動力ですね。

保要 とりあえず考えるより行動しようっていう感じです(笑)。

<起業努力>

― 立ち上げるにあたって一番苦労されたところってどこでしょう?

保要 「物件探し」と「資金調達」が大変でした。10年前は今ほど古民家活用が盛んではなかったので、まず地元で物件探しを始めましたが、20代前半の若者に代々百年続く古民家を貸す方はやっぱりいらっしゃらなくって。最終的に知り合いのお父様に仲介に入っていただき、その方の信用で貸していただきました。

資金調達については、物件を改修するのはかなりお金がかかることなので、借り入れが必要になりますが、それもなかなか理解されず時間がかかりました。

<全国の限界集落で事業展開>

― これからどういう活動をしていきたいと思っていらっしゃいますか?

保要 今、山梨と千葉で事業を行っていますが、限界集落*とされる地域でも成り立つビジネスモデルがある程度出来上がったので、同じように困っている地域にこの事業を広げようとしている最中です。

*限界集落:地域人口の50%以上が65歳以上の集落。若者が流出し、社会的共同生活を維持することが限界に近づきつつある集落のこと。

具体的には、群馬で開業したり、長崎で離島モデルを作ったりと徐々に広げており、さらに違うエリアに拡大していきたいと思っています。

そして今古民家は、廃れて本当にダメになっているものが多いので、同じように事業を広げて1件でも多く改善できればいいなとも思います。新型コロナウイルス感染拡大の時も1棟貸しは支持されていましたし、これから観光でインバウンドの方々も来られます。

<最後に>

― 在学生・同窓生に向けてメッセージをお願いします。

保要 興味があることに、とりあえずは行動してほしいです。また、古民家活用に困っている方はぜひご連絡ください(笑)。古民家がダメになる前にご連絡いただきたいです。

― 最後に、明星大学に入ってよかったと思うことありますか?

保要 大学在学中は、いろいろなところに行ったり、様々な経験をさせていただいたり、本当にいい先生と出会えたなと思っています。特に毛利先生には「入学したころは、私の研究室に1人で来ることができなかったくらい恥ずかしがりやだったのにね」と今でもご連絡をいただきます。また「るうふ」にもお越しいただき、相談にのっていただいています。

2024.2.5(Zoom インタビュー)

保要佳江(ほようよしえ
43期・国際コミュニケーション学科2010年3月卒)
株式会社 LOOOF 代表取締役 社長
https://loof-inn.com

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